相続時精算課税制度の仕組みとは?計算方法や注意点を解説!

不動産

灘野 博史

筆者 灘野 博史

不動産キャリア10年

愛媛県生まれなこともあり、夏、冬問わず主にアウトドアが好きですが国内外でのミュージカルなどを観劇することも大好きです。
築古戸建て投資から不動産をスタートし建築やDIYも得意です。

日本国内は全ての都道府県に旅行し、海外旅行も50か国以上は旅をしました。
各地の不動産(住宅や歴史的な建造物)を見ながら世界遺産や郷土グルメを食すのも楽しんでいます。

相続時精算課税制度の仕組みとは?計算方法や注意点を解説!

生前におこなえる税金対策に、相続時精算課税制度があります。
この制度を活用すれば生前贈与の自由度が広がり、贈与税の課税額を抑えられる効果が期待できます。
そこで今回は、相続時精算課税制度とはどのような仕組みなのか、計算方法や利用時に知っておきたい注意点とともに見ていきましょう。

相続時精算課税制度とはどのような仕組み?

相続時精算課税制度とはどのような仕組み?

相続時精算課税制度とは、一定の要件を満たす贈与について、贈与財産の価額から特別控除額(限度額:2,500万円)を控除した後の金額に、一律20%の税率を乗じて贈与税額を計算する制度のことです。
そして、この制度を用いて贈与した財産については、贈与者が亡くなって相続が開始したとき、相続財産に加算されます。
課税のタイミングを先送りするだけなので、相続税の節税にはつながりません。
しかし、早期に財産を子や孫へ移転させたいときには便利な制度といえるでしょう。

相続時精算課税制度の適用対象者

相続時精算課税制度の適用対象者は次のとおりです。

●贈与者:贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母または祖父母など
●受贈者:贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の者のうち、贈与者の直系卑属(子や孫など)である推定相続人

相続時精算課税制度を利用するメリット

では、相続時精算課税制度にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
まず、贈与税を暦年課税するときには年間110万円までの非課税枠があります。
しかし住宅購入資金など、110万円を超える多額の資金が必要な場面では贈与税がかかってしまいます。
そこで相続時精算課税制度を利用すれば、一度にまとまった資金を贈与しても贈与税はかかりません。
このほか、賃貸マンションのように賃料収入の蓄積が見込まれる財産(収益物件など)の贈与にもおすすめです。
収益物件を贈与すれば、賃料収入の部分に課せられるはずだった贈与税を回避できます。

相続時精算課税制度の計算方法とは?

相続時精算課税制度の計算方法とは?

相続時精算課税制度を利用するときは、贈与税と相続税を計算する必要があります。
それぞれの計算方法や、利用のぜひを判断する際のポイントを見ていきましょう。

贈与税の計算方法

贈与税は、その年の1月1日から12月31日までに贈与を受けた財産の価格で計算します。
課税価格=財産の価格-基礎控除額(110万円)
基礎控除後の課税価格に応じた税率および控除額が適用されます。
贈与税=課税価格×税率(10~55%)-控除額(10万円~640万円)
※18歳以上の者が直系尊属(父母や祖父母)から贈与を受けた場合、特例税率と控除額が適用されます。
たとえば、課税価格が3,000万円(基礎控除前3,110万円)のケースで考えてみましょう。
相続時精算課税制度を利用できる続柄での贈与は、特例税率が適用されます。

●税率:45%(特例税率)50%(一般は50%)
●控除額:265万円(一般は250万円)
●贈与税=3,000万円×45%-265万円=1,085万円


このケースにおいて相続時精算課税制度を利用すると、2,500万円を超える500万円にのみ贈与税が課せられます。
贈与税=500万円×20%(一律)=100万円

相続税の計算方法

次に、相続税の計算方法を確認していきましょう。
相続税には基礎控除があり、以下の計算方法で算出します。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
法定相続人が配偶者と子どもの2人いる場合、基礎控除額は4,200万円(=3,000万円+600万円×2人)です。
相続した財産が基礎控除額を上回るとき、相続税が発生します。
法定相続分に応じた課税価格ごとの、税率および控除額は次のとおりです。

●1,000万円以下:10% / 控除額なし
●1,000万円超3,000万円以下:15% / 50万円
●3,000万円超5,000万円以下:20% / 200万円
●5,000万円超1億円以下:30% / 700万円
●1億円超2億円以下:40% / 1,700万円
●2億円超3億円以下:45% / 2,700万円
●3億円超6億円以下:50% / 4,200万円
●6億円超:55% / 7,200万円

贈与するかどうかの判断ポイント

相続時精算課税制度の利用前後で、相続税の課税価格は変わりません。
相続時精算課税制度により、以下のケースで贈与・相続がおこなわれたケースで確認してみましょう。

●贈与価格:3,000万円
●相続価格:3,000万円
●法定相続人:1人


このときの贈与税は以下の金額になります。

●贈与税の課税価格:390万円(3,000万円-110万円-2,500万円)
●贈与税:78万円(=390万円×20%)


次に、相続税は以下の金額になります。

●相続税の控除額:3,600万円(=3,000万円+600万円×1人)
●相続税の課税価格:2,400万円(=6,000万円-3,600万円)
●相続税:310万円(=2,400万円×15%-50万円)


相続時における納税額は、すでに納めている贈与税を差し引いた232万円です。
しかし、このケースでは財産の評価額が変動する可能性を考慮していません。
たとえば、贈与時点では評価額3,000万円だった不動産が、相続時点では高くなる(相続税も増える)ことがあります。
現金で贈与を受けた者が、住宅ローンや教育ローンを借りずに済むこともあるでしょう。
そのため、増えた税額以上のベネフィットがあるときは、相続時精算課税制度による贈与を検討してみてください。

相続時精算課税制度の注意点とは?

相続時精算課税制度の注意点とは?

相続時精算課税制度を利用する際は、気を付けたい注意点があります。

節税につながるとは限らない

相続時精算課税制度を利用すると、小規模宅地等の特例は利用できません。
小規模宅地等の特例とは、一定の要件を満たした宅地について相続税評価額を最大で80%軽減できる制度のことです。
贈与する財産に宅地等が含まれているときは、小規模宅地等の特例を利用したほうが有利な場合があるので注意しましょう。

物納できない

相続税は現金で一括納付するのが原則です。
しかし、延納でも納税が難しいなど一定の要件を満たしていれば物納が認められています。
このとき、相続時精算課税制度によって取得した財産は物納に用いることができない点にご注意ください。
相続税が高額になると予想されるときは、納税資金の確保が必要です。
たとえば生命保険で現金を受け取れるようにしておく、不動産の現金化を済ませておくといった対策があります。

生前贈与の方法にも注意

相続税の節税目的で生前贈与をおこなうときは、以下の注意点があります。

●現金の贈与は記録に残す(手渡しにしない)
●生前贈与加算に注意


生前贈与のつもりでも、現金手渡しでは贈与の証拠が残りません。
税務署が贈与であると認めなければ相続財産として扱われるので、現金の贈与は銀行振り込みにして記録を残しましょう。
そして、亡くなる直前におこなわれた贈与は相続財産に加算される生前贈与加算の対象です。
令和6年1月1日以降は、亡くなる7年前の贈与分について、その財産の合計額から100万円を控除した分が相続税に加算されます。
したがって、贈与のタイミングによっては相続税の節税にはならないのでご注意ください。

まとめ

相続時精算課税制度とはどのような仕組みなのか、税額の計算方法や注意点とともに解説しました。
相続税そのもの節税につながる制度ではありませんが、相続争いに発展することを避けられるなどのメリットもあります。
将来的に価値が高まりそうな財産の贈与にも適しているので、相続財産や相続人の状況に応じて利用を検討してみてはいかがでしょうか。


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